高次脳機能障害を呈した対象者の評価における思考過程

ASRIN STAFF

作業療法士 二橋喜太郎

 

はじめに

対象者を評価する際、医学的情報の量などは所属する施設の環境により異なります。


情報が限られた中、大まかな障害像を想像・予測した上で、聴取・観察を行うことは対象者の負担軽減や症状理解に役立ち、実際のアプローチを検討する際にも1つの視点となります。


ここでは、脳部位での大きな枠組みで障害像をとらえたり、頭部画像においてポイントとなる脳溝を確認しながら、病変部位より大まかな認知機能による障害像をとらえたりする思考過程を考えてみたいと思います。

 

大きな枠組みで障害像をとらえる

1. 脳の階層性

 

古皮質・旧皮質…覚醒や自発性、情動に関与


⇒意識障害や記憶障害を呈しやすい


新皮質…理性や環境からの情報に関与、外界に対する適応行動を生み出す


⇒外界環境との適応困難を呈しやすい

 

2. 前部脳(前頭葉)と後部脳(頭頂葉・後頭葉・側頭葉)

 

前部脳…運動と制御


⇒運動の出力や行為のプログラミング・制御に支障が生じやすい


後部脳…感覚と分析


⇒外界情報の入力や処理に問題が生じ、適切な知覚・認識・認知に支障が生じやすい

出力情報の連絡にも誤りが生じやすい

 

3. 側性化(空間脳と言語脳)

 

右半球…空間脳・視覚情報処理


⇒半側視空間無視など、視空間・自己身体との不適応を生じやすい

 

左半球…言語脳・概念的処理


⇒失語、失行、失認など、言語との結びつきや対象の認知・操作、順序性に支障が生じやすい

 

脳葉より障害像をとらえる

1. 中心溝・外側溝(シルヴィウス裂)を確認する

 

■中心溝・外側溝を同定し、脳葉を確認する 

 

○前頭葉の働きとその障害


・前方部

(前頭前野) …行動のプランニング、前頭葉機能[注意、抑制機能、作動記憶、遂行機能、流暢性]

⇒遂行機能障害、前頭葉症状 [高次の保続、複数の情報の組織化の障害、流暢性の障害]

 (背外側部) 全般性注意障害


(眼窩領野) …人格、社会的行動

⇒人格変化、社会的行動障害


・後方部

(補足運動野) …誘発された行為の抑制

⇒環境依存症候群


(運動前野) …行為のプログラミング[手順・準備]

(一次運動野)…筋運動の指令

⇒運動出力の障害

(中心溝前後・左) 肢節運動失行 [拙劣症]

 

2. 頭頂後頭溝を確認する

 

■頭頂後頭溝・頭頂間溝を同定し、脳葉および縁上回・角回を確認する


○頭頂葉の働きとその障害


・前方部

(一次体性感覚野)…基本的な体性感覚情報の受容

⇒位置覚、触覚定位、2点識別覚の障害

(中心溝前後・左) 肢節運動失行 [拙劣症]


 ・上・後方部

(上頭頂小葉)…身体内感覚、空間情報との照合、対象の位置認識[位置や方向]:背側視覚路・Where経路

() 同時失認、視覚性運動失調、視覚性注意障害

 (両側) バリント症候群


 ・下・後方部

(下頭頂小葉)…意図的行動、構成能力、左右弁別、視‐触‐聴覚統合

() 観念運動失行 [パントマイムの障害]、観念失行[道具の使用操作の障害]、失読・失書

   ゲルストマン症候群


*上・下頭頂小葉

() 視空間障害 [視覚的定位障害、立体視障害]、半側無視、左側の身体失認

 () 両側の身体失認

 

 

 

*角回を探す方法(ハの字レベル)

 ・脳梁体部がみえる、側脳室の“ハの字”レベル

 ・“ハの字”の払い…角回

 ・外側溝(シルヴィウス裂)後枝を逆U字に取り囲む…縁上回

 

3. 後頭前切痕(前後頭溝)を確認する

 

■後頭前切痕(前後頭溝)を同定し、脳葉を確認する


 

 

○後頭葉の働きとその障害 

 ・前方部…視知覚

 ・後方部

(一次視覚野)…基本的な視覚情報の受容

 

⇒皮質盲、同名性半盲

 (底面・右or両側) 相貌失認、(底面・右) 地誌的障害

 

 

○側頭葉の働きとその障害 

・上方部…聴感覚(一次聴覚野)、言語理解

・中央・下方部…視‐聴覚統合、記銘、視覚対象の認識[形、大きさ、意味]:腹側視覚路・What経路

 

() 視覚失認、言語の障害、記憶の障害

 

4.半球内および半球間連絡より、情報の流れを考える

⇒局在性や左右半球の優位性により、上記のような各脳部位が得意として働く外界の特徴的な知覚・認識・認知が困難となり障害像として予測されます。

 

しかし、より重要となるのは脳内のネットワーク経路により情報処理過程や情報連絡がなされており、その問題によって誤った認識・認知情報が行為・運動に影響を及ぼしている状況も予測されることです。

 

大まかな障害像から観察および詳細評価を選択し実施する

大まかな症状として予測された内容を含む刺激・課題を提示します。

 

また、動くことができる方へは、実際の活動を実施していただき、行為・運動に支障が観察されないか確認します(難易度も考慮)

 

姿勢やさまざまな刺激に対する反応・関わり方も、対象者をより深く理解する手掛かりとなると考えます。

 

まとめ

高次脳機能障害を呈した対象者の障害像を理解する評価者の思考過程についてまとめてみました。

 

これらは1つの視点の提案であって、局在のみでなく交連連絡を考慮した左右脳の働きのバランスや情報連絡、連合線維を考慮した同側脳内での情報連絡、投射線維による情報連絡など様々な視点から症状を考え、本人・家族からの聴取、刺激に対する反応、そして対象者をよく観察し感じることが大切と考えます。

 

対象者の心を感じ取る一助となれば幸いです。

 

 

参考引用文献

久留裕,真柳佳昭():画像診断のための脳解剖と機能系.医学書院,1995


石原健司:CD-ROMでレッスン脳画像の読み方.医歯葉出版,2010


平山惠造,田川皓一(編著):脳卒中と神経心理学.医学書院,1995


武田勝彦,波多野和夫(編著):高次脳機能障害 その概念と画像診断.中外医学社,2006


 

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