生活時間に基づいた治療アプローチ

ASRIN STAFF

作業療法士 伊藤嘉希

はじめに

臨床経験の中で関わることができた対象者が退院後にどんな生活を送るのか、これまでどんな生活を送ってきたのかを知ることが大切だと感じるは場面が多いと思います。

各個人違う生活状況を評価し、セラピストの経験や価値観のみに頼ることなく問題点を見定めるためには、対象者の生活が同世代全体の中でどこに位置するかを把握することが必要ではないでしょうか。

今回、高齢者の生活状態を明らかにすることで、より生活に合わせた治療プログラムを検討して頂けたら幸いです。

生活時間について

生活時間の分類

人の生活時間には生活必需行動(一次活動)、社会生活行動(二次活動)、自由行動(三次活動)があります。


生活必需行動とは個体を維持向上させるために行う必要不可欠性の高い行動で睡眠、食事、身辺処理、療養・静養などのことです。いわゆる生理的な活動です。


社会生活行動とは家庭や社会を維持向上させるために行う義務制、拘束性の高い行動で仕事、学業、家事、通勤・通学、社会参加などのことです。いわゆる役割行動です。


自由行動とは趣味活動などの人間性を維持向上させるために行う自由裁量性の高い行動でマスメディア接触、積極的活動であるレジャー、人と会うこと・話す事が中心の会話・交際、心身を休める事が中心の休憩などです。いわゆる余暇活動です。

 

 

 

高齢者の生活時間を考える前に、まずは自分の生活時間について考えてみましょう。

 

平日、休日と自分の1日の生活を時間帯ごとに書き出して行動時間を分類するとグラフのようになる方が多いかと思います。

平日は10時間あまりを生活必需行動に、8時間30分あまりを社会生活行動に4時間40分あまりを自由行動に費やしています(図1)。

 

 

 

       図1.成人の生活時間配分(平日)

成人の生活時間を踏まえた上で高齢者の生活時間を見てみましょう。


高齢者の1日の生活時間は半分が生活必需行動(図2)となっています。

成人と比較して増加していますが、これは各生理的活動に要する時間の増加によるものです。


社会生活行動は減少し、その分自由行動が増えています。

退職などによって仕事をする時間が減少しているためです。


もうひとつの特徴として高齢者は平日と休日の生活時間の差があまりないことも押さえておくとよいでしょう。

 

 

       図2.高齢者の生活時間配分(平日)

自由時間(余暇活動)について

ここでは自由行動について話をします。

 

初めにも説明しましたが、自由行動とは趣味活動などの人間性を維持向上させるために行う自由裁量性の高い行動とされています。

余暇活動といえば趣味開発と考える人は少なくないと思いますが、いわゆる趣味とは一体どのようなものでしょうか?


広人苑によれば、「専門家としてではなく、楽しみとしてする事柄」とされています。

 


それでは「専門家でない」「楽しみ」とはなんでしょう?

 

 

専門家とは「ある学問分野や事柄などを専門に研究・担当し、それに精通している人」されています。


このことから「趣味とは、精通はしていなくてよい楽しみとしてすること」と言い換えることができます。


そして、楽しみとは同じく広人苑によれば「心が満ち足りて、うきうきするような明るく愉快な気分である」とされています。
要するに楽しむ活動の提供をすることがQOLの向上につながるということです。

 

患者さんにただ何かを提供するのではなく、心が満ち足りてうきうきするような活動を提供できたなら、それはその人のQOL向上の手助けになったと言ってよいでしょう。

それでは趣味を持っている高齢者はどのくらいいるのでしょうか?また特徴はあるのでしょうか?

高齢者の中で65~74歳の46%、75歳以上の40%が趣味を持っているとされています。

特徴としては男性の方が女性より趣味を持っている人が多く、家族形態では夫婦2人暮らしで趣味を持っている人が多く、独居では少ないとういう結果になっています。

また年収別には高収入のほうが趣味を持っていることが多いとされています。

趣味を持っている高齢者は趣味をもっていない高齢者よりも体力、気力、感応力(楽しいと感じること)、感受性が著しく高いと言われています。

 

高齢者の自由時間の過ごし方は以下のようになっています。


外出する高齢者は男女共に3割。

友人との交流で相談事などができる親しい友人の有無は7割以上の高齢者に友人があり、年齢が高くなるほどその割合は低くなっています。

趣味・団体活動では老人クラブ、町内会、趣味サークルなどに属している高齢者は全体の6割となっています。


余暇活動に求めるものとしては左スライドの様になっています。

前述までは生活時間とはどのようなものか、一般的な高齢者の生活と自由行動について話をさせていただきました。

ここからはそれらを踏まえてのリハビリテーションとしての介入を考えていきます。

生活の評価としては国際生活機能分類(ICF)がわかりやすいかと思います。

国際生活機能分類(ICF)の目的は対象者の全体像を評価し、活動を取り巻く相互関係を重視して、環境や社会がどのようにそれを制約しているかを「積極的に解決する」ということにあります。

いわゆるトレーニングに拘らず、家庭内の役割や趣味活動や社会参加が可能となる条件を作ることで生活の質を高めるというものです。

生活時間を考えたリハビリの介入について

全体像を評価する上で高齢者の特徴は抑えておかなければなりません。


①多くのケースが要介護者であり「加齢」という不可逆的な機能低下 を伴っている。

 

②要介護高齢者の生活は低栄養状態、全身倦怠感、睡眠障害、意欲低 下などによる体力の影響が大きい。

 

③複数の疾患を持つ(認知症、骨関節疾患、内部障害等)。

 

④入院期間の短縮により在宅及び施設でも医療度の高い対象が増加  し、脳卒中後遺症者でも回復段階で退院する場合が多い。

 

⑤地域でのリハ要請はケアマネジメントに基づく為、本人の希望等で介入が長期化する傾向がある。

 

 

などの特徴があり、リハビリの対象は著しく拡大しているばかりではなく、一人一人が複雑な状態にあり、結果的に多様なニーズを持つ結果となっているという現状です。

そこで対象者の評価を行うときには、

 

 

その時期の問題を解決するだけでなく、

 

今までの「生活」がどのように現在の「生活」に影響しているか、

 

現在の生活を継続すれば将来どのような「生活」になるか

 

といった「生活」そのものを評価していくことが必要となってきます。

 


急性期や回復期を経て在宅に戻ったケースが、数ヵ月後、数年後に悪化する事は少なくないですが、「低下」という現象を生活レベルで評価して、例えば歩行可能だったケースが歩行不可能になった時点で「低下」と判断したのでは遅すぎます。

生活支援は日常生活動作能力などの一時的な現象に対するものではなく、その生活が長期にわたって継続できる予防的な機能を含んでいると考えなければなりません。

 

つまり、生活支援は時間的要素(長期的変化を見込んだ予防)を加味した上での治療・練習的役割を含めて検討するべきなのです。

 

治療プログラムは生活機能向上と予防的対応の両面を加味しなければなりません。

 

対象者(特に高齢者)はすべてが生活機能向上を目指せるわけではなく、生活機能そのものの向上が望めなくても予防的に体力・筋力を強化する場合が少なくありません。


一人一人の生活水準を高める為、対象者の目的に合わせてプログラムを検討しなければなりません。

要介護高齢者は8割以上が後期高齢者となっています。

遠くない将来に「死」を迎えるという現実は避けられません。

ですから機能や能力の改善だけがすべてではありません。


しかしながら現実的な身体機能に着目することは重要であることは間違いありません。

対象者の現在の病期と予後を踏まえて機能・能力が改善するか低下していくのか、維持していくのかを判断します。


後期高齢者(要介護者)の場合の治療プログラムは急性期~回復期(在宅を含む)の予後改善群では移動能力、排泄動作に関する内容が多くなっています。


回復期~維持期(在宅を含む)、維持群では活動量を高めるための生活スケジュールの工夫、行動、人間関係づくりなどが多くなっています。
難病などの低下群では食事、座位保持時間に関する内容が多くなっています。


疼痛緩和、関節可動域拡大、筋緊張亢進状態の緩和、ポジショニング、車椅子座位姿勢改善、呼吸機能改善、浮腫軽減なども結果的にQOL向上につながっていきます。
このように各個人の病期、予後、生活の合わせたゴールを設定していきます。

事例紹介

①年齢:60代男性 右利き


②疾患名:脳梗塞(右後頭葉)

     左麻痺

     交叉性失語症


③既往歴:10代 虫垂炎 


④現病歴:H22年3月末に交通事故。4月にコーヒーが作れないなどの行動異常あり。

     A病院を受診しMRIにて脳梗塞と診断される。

     重度左片麻痺、失語症、左半側空間無視あり。

     5月にリハビリ目的のため当院入院。

     10月退院時にはAPS+1本杖にて自立歩行可能。

     能力維持、自立度向上を目的に週1回で訪問リハビリ開始となる。


⑤生活歴:A県で兄、姉の3兄弟の末っ子として生まれる。

     学生時代は活発で仲間も多く管楽器、バンド演奏などをしていた。

     20代で結婚し娘が生まれる。工場を自営業として始める。

     50代で妻に先立たれ、娘とは嫁入り後疎遠になる。

     その後一人で工場を切り盛りしており発症となる(内容は一部のみ記載してあります)。


⑥介護認定:要支援2(週2:デイサービス、週1:訪問リハビリ)

作業療法初期評価

①身体機能情報
・左片麻痺、重度感覚障害
・BRS:上肢Ⅱ、手指Ⅱ、下肢Ⅱ
・ROM:肩関節屈曲、外転90度以上にて疼痛あり
・筋力:MMT 非麻痺側 上肢5 下肢5  体幹4
・感覚:表在、深部覚共に重度鈍麻


②高次脳機能情報
・失語症:単語が出てきにくい


③ADL情報
・修正自立~自立
・FIM 121/126点 (運動:88点、認知:33点)


④趣味
・音楽鑑賞

介入の基本方針

[目標]
1、ADL能力の維持
2、QOLの向上

[本人の希望]
・自宅内は装具なしで歩きたい
・今の能力を維持したい
・自分にできることを探したい
・できるだけ自立した生活を送りたい
・うまく話がしたい。

介入経過

①介入開始~1ヶ月(要介護1)

 

夜間装具なし歩行可能となるが、まだ伸展パターンが出てしまい心配とのことで日中は装具装着している。
利用サービス:訪問リハビリ2回/W、短時間通所リハビリ1回/W

 


②2ヶ月~4ヶ月(要介護1)


姉より装具の音や床が傷付いてしまうので屋内は裸足歩行がいいと希望あり。

伸展パターン残存しているが、本人、ご家族に転倒リスクの説明をし、納得された上で完全に屋内裸足歩行となる。
利用サービス:訪問リハビリ2回/W、短時間通所リハビリ1回/W

 

 

③5ヶ月~8ヶ月(要支援2)


ADL能力は維持できており、自主トレも毎日行えている。

介護度が下がったことでサービス見直し。

他者とのかかわりが少なく、自主トレと読書以外にやることがないとのことでデイサービス利用開始。
利用サービス:訪問リハビリ1回/W、デイサービス2回/W

 

 

④9ヶ月~(要支援1)


日常生活は変わらず過ごしていたが、社会的に自立したいという気持ちが強く、姉夫婦と同居している一軒家の向かいにアパートを借りることとなる。

上がり框や敷居などがあるため家屋状況を本人、ご家族と共に確認し、生活環境の設定を行った。
食事の関係で2つの家を行き来しており、生活は順調におくれていたが、最近悲観的な発言が聞かれることが多くなっており姉も心配している。

本人は自分の兄も仕事をしているのに自分は何もできないと言っている。

毎日自主トレ、読書、デイサービスなどで時間が過ぎてしまい新しくできることもなくこの先が不安な様子。
利用サービス:訪問リハビリ1回/W、デイサービス2回/W

生活上の問題点

 

 

・姉夫婦の協力のもとアパートでの生活は確立されており、本人、家 族共ADL面での不満は少ない。家事などで自立できないことと余暇 活動を含めてできることが少ないこと、自分で収入を得られないこ とに対して劣等感を感じており、悲観的な発言が増えている。


・10時間の自由行動の中で半分以上を散歩に当てているが目的がな い。

 

・少しでも自立をしたいが食事は3食姉が作っている。 

 

・楽しみがない:音楽鑑賞(3日に1回程度)、読書。

生活時間に基づいた介入

アクティビティとして木工、料理を開始した。


・木工はスタッフ用の道具箱を作成。

 

・料理は包丁を使うことを中心に実施し、同時に余暇活動の一環として日課にもなりそうで本人の好きな(会話の中でよく 仕事の休憩や休日にコーヒーを飲んでいたとの情報有り)コーヒーを入れる練習を開始。

 

・散歩の目的として近くのスーパーまで買い物練習を実施し、往復のための持久力と買い物のための一連の動作を練習。

結果(初期介入からは1年)

 

①評価指標の変化(数値の変化)  変化なし

②生活上の変化

 

木工は道具箱を作成し、達成感と満足感、自己効力感を得ることができ、悲観的な発言は少なくなった。
生活時間の配分に変化はないが、自由行動の内容に変化が見られた(赤字で記載)。
訓練後に自分で入れたコーヒーを振舞ってくれ、日常生活でも1日3回自分でコーヒーを入れてお菓子を食べることを楽しむようになった。
散歩の目的として2日に1回一人で買い物に行くことが可能となる。

考察

運動プログラムと自主トレーニングの継続によって、筋力、持久力、ADL能力は維持されている。 これらによる疲労や痛みの訴えなどはほとんどなく、運動量としては適切であると判断する。
一方で、悲観的な発現などが目立つようになってきており、障害を持っていることに対する劣等感や生活していく上で経済面、家事面で自立できないことへの不満が感じられる。

 

本症例は余暇時間のほとんどを散歩や筋トレなどに使用しており、生活もルーチン化している。

リハビリとして介入していく上で生活時間のうちで10時間程度占める余暇活動の時間を改善することで、自信の獲得、自己効力感の向上、気分転換につながるのではないかと考えた。


そこで木工を実施し、できることが少ないと考えている症例に対し、形として残るものを完成させることで達成感を得る。

さらに他者に使用してもらうものを作り、称賛を得ることによって自己効力感の向上を図ることができた。
調理訓練により包丁を使うことに抵抗がなくなり、果物などを切ることができるようになり朝食を自分で用意することにつながった。
また、散歩の目的を得るための買い物練習では単に目的を見つけるだけでなく、自分で朝食、昼食も買いに行くという家事動作にもつながる目的を設定することで昼食も自分で用意できるようになった。
コーヒーを入れることができるようになり、1日3回自分でティータイムを作るようになった。
できることが増え、悲観的な発言も少なくなった。これらの活動を通して本症例のQOLは向上したのではないかと考える。
 
人間の生活は個人によってさまざまです。

個人によって多様なニーズがあり、複雑な感情を持ち、価値観も異なります。
多面的な存在に対する援助は、個人の生活をより詳細に知ることが不可欠です。
高齢者のQOLを向上させる手段としてADL能力だけでなく余暇活動へのアプローチも重要です。
より質の高いリハビリテーションアプローチを提供するためには、必要な知識や技術の他に、潜在能力としての価値観、信念、責任感、固有の性格などが大きく影響してきます。
対象者の望むものを見出すために、一人一人のセラピストには人間としての豊かさ求められるのではないでしょうか。

 

 

参考引用文献

 

(1) NHK放送文化研究所:国民生活時間調査報告書:2-47, 2006.
(2)金谷さとみ:施設の高齢者理学療法.理学療法32:159-162,2005.
(3)守口恭子 他:地域の高齢者は余暇時間に何をして過ごしているのか.日本作業療法学会資料:330,2008.
(4)岸上博俊 他:単身生活を送る健康な女性高齢者が外出によって得られる役割について.日本作業療法学会資料:327,2008.
(5)大西和弘 他:回復期リハビリテーション病棟におけるナイトケアの実践.日本作業療法学会資料:347,2008.
(6)福井大介 他:脳卒中患者の趣味活動実施に対するアプローチについて.日本作業療法学会資料:333,2008.
(7)山本伸一 他:回復期リハビリテーションにおける家事技能の支援.OTジャーナル41:702-710,2007.
(8)土井由利子:総論‐QOLの概念とQOL研究の重要性.J.Natl.Inst.Public Health,53:2004
(9)浅海奈津美:老人の生活.作業療法8:682-692,1989.

 

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