烏口下脱臼を呈した80代女性へのアプローチ

ASRIN STAFF

作業療法士 松谷章徳

はじめに

右肩関節鳥口下脱臼を呈した80代女性を担当させていただきました。介入当初は異常動作パターンによりactive・passiveいずれにも大きな可動域制限が見られました。今回はパターンの修正に対するアプローチに注目して介入を行ったので報告させていただきます。

現病歴

症例は中肉中背の女性で、夫と2人暮らしをされています。

畑道の端の溝で右方外側から転倒され受傷されました。腕が上がらないため、夫の車にて当院受診しすぐに整復されました。

 

受傷されたその日から可能な限りの家事動作を三角巾装着下で行っていました。受傷後3週間の固定期間を経てリハビリ依頼あり開始となりました。

治療

初期状態

介入開始時は大胸筋・小胸筋及び大円筋など肩関節内転・内旋筋の筋緊張亢進が著明でした。

 

それに伴い肩関節屈曲動作は端座位にてactive30°(頚部側屈、体幹伸展・側屈著明)、passive65°と大きく可動域制限が見られたため、リラクゼーションおよびGH関節の可動域確保から訓練を行っていきました。

上肢の挙げ方の修正

受傷後6週間経過後に外転および内外旋の許可が出ました。

 

その時の端坐位での肩関節屈曲はactiveで100°、Passive135°と改善されていました。

その時期に自宅で上肢拳上を行う頻度が増加していたのですが、本人に上肢の拳上する感覚を左右比較でしてもらうと、患側上肢は非常に重く頑張ってあげているという意識を持っていらっしゃいました。

 

そこで現在の上肢拳上の左右差を鏡で確認していただき、現在の自分の腕を上げているイメージとの誤差を視覚的フィードバックを用いて修正していただきました。

 

 

 

 

フィードバックを入れてから上肢拳上を行ってもらうと、「ここが突っ張る」という訴えが図の赤い丸の箇所に見られました。

 

触診してみると小胸筋から上腕二頭筋、そして長・短橈側手根伸筋の著明な筋緊張亢進が見られました。その事から、Anatomy trainsにおける「The Deep Front Arm Line(以下、DFAL)の治療」を試みました。

1)深前腕線(DFAL)     

DFALの治療(仰臥位)

①小胸筋

起始…第3~5肋骨

停止…烏口突起

治療操作方向…肩関節屈曲・軽度外転肢位(状態に合わせて操作する角度を調節する)

②上腕二頭筋

起始…鳥口突起.臼上腕関節の関節包および臼唇

停止…橈骨粗面

治療操作方法…肘関節屈曲・前腕回内⇔肘関節伸展・前腕回外

③長・短橈側手根伸筋

起始…上腕骨外側上顆

停止…第2・3中手骨底

治療操作方向…手関節背屈・橈屈⇔手関節掌屈・尺屈

 

※上記の収縮方向・伸展方向への運動は繰り返し交互に実施していきます。

※上肢操作は痛みが無い範囲内で徐々に行っていってください。無理な操作は痛みを増長する危険性があります。

介入後の状態

最後は下関節上肢靭帯と大円筋などの腋下部の伸長性の低下がみられていたため、重点的にストレッチを行い、不足していた上腕三頭筋の筋力を徒手抵抗による遠心性収縮の運動を行いました。

 

その結果、上肢を挙げる際の重さをほとんど感じる事無く動作可能となり、上げるイメージと実際の動きとの誤差も無くなりました。

 

 

介入後5ヶ月でactiveにて屈曲165°、外転150°、結滞動作Th5レベル、自宅での家事も問題なく行えるためリハビリは終了しました。

考察

今回のケースでは異常動作パターンにより本人のイメージしている動作と実際の動作の誤差が大きく、そのイメージの修正を行う事で素早く動作改善を図る事が出来た事が良好な結果を生んだと考えられます。

 

多くの患者様は「腕を挙げよう、手を高く上げよう」と意識して動作を行う為、セラピストが「力を抜いてください」と伝えても簡単に修正が出来ない事が多いと思います。

 

より突っ込んだ訴えを聞いてく事で、左右の上肢のイメージの摺合せを行う事が出来た為、患者様とのコミュニケーションの重要性を再確認出来たケースでした。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

引用文献

1)Thomas W.Myers(著),松下松雄(訳):アナトミー・トレインー徒手運動療法のための筋筋膜経線.pp 141~153.医学書院.2009

勉強会の紹介

明日から臨床で使える勉強会

 

※3ヶ月に一回のペースで行なっている。参加人数も多いときには600名ほど参加して頂いた。

臨床に出来るだけ役に立てるようなことを意識した勉強会。

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