てっく訪問看護ステーション
作業療法士 石田匡章
転倒し左橈骨遠位端骨折を呈した60代女性を経験した。保存療法で、受傷直後からの介入が出来た症例であった。
固定中からのアドバイスを行ない、良好な結果を得られたので報告する。
理解が深まるように、健常者での動画を交えてお伝えしたい。
受傷機転:犬の散歩中、リードが足に絡まり転倒。左手掌を地面につき受傷。タクシーにて病院受診。転位もほとんどないため、保存的治療にて対応。リハビリでは、当日からアドバイス介入する。
状況:中肉中背の女性。今まで外傷の経歴なし。若干不安な様子。出来るだけ不安が取り除けるように、骨折の説明と今後のリハビリの方針を伝える。少し安心した様子で、次回予約を行なう。ギブスカットまでは週一回の外来通院で対応した。
介入:まずは骨折を初めて経験する場合、今後どのようになるのかは不安が強い。症例も不安感は強いため、安心感を持ってもらうようにお伝えした。
また2回目以降でのリハビリに関しては、ギブス状況の確認・圧迫状態・熱感・三角巾の固定方法・自主トレーニングをお伝えした。以下に詳しく説明する。
他関節・手指に対する自主トレーニングは重要である。その中でもピックアップした2種類の自主トレを伝える。
1.肩関節に対する留意
橈骨遠位端骨折後、肩関節痛を誘発する場合がある。特に受傷後、1ヶ月後あたりに訴える場合がある。
これは肩峰下の損傷の為と考えられている。
橈骨遠位端骨折の場合、手掌をつき受傷する場合が多い。その外力は橈骨をかえし、上腕骨まで伝わり、肩峰下で衝撃を受ける。
受傷時から損傷は考えられるが、三角巾固定などで安静をとっていることも多く、肩の損傷があると本人はあまり感じられない。
また内旋位の安静肢位が続くため、外旋方向への可動域制限も時折見受けられる。そのためギブス固定時から常に、肩に対しての意識を持っていく必要があり、ギブス除去後に肩が痛みがあれば治療も遅くなってしまう。
手関節のみの損傷とは考えず、肩への影響もあることも留意する必要がある。
※三角巾などにて肩関節内旋位が多く見られる。出来るだけ外旋位にとる回数を増やす。
また外旋位の状態から、肩関節屈曲し、大結節のPassを維持しておく。
さらに外旋位から内転方向へ持っていくことにて、肩関節前方の拘縮の予防をはかる。
2.尺側手根屈筋へのアプローチ
橈骨遠位端骨折を呈した場合、尺側手根屈筋が堅く掌屈位になり、疼痛を訴える患者は少なくない。
しかしながら、ギブス固定中では直接的にはアプローチは出来ない。
間接的な治療も考えていく必要がある。
尺側手根屈筋の停止は豆状骨。また小指外転筋の起始も豆状骨。
豆状骨は種子骨のため、従来より他の骨と比べても可動性ある。
この起始停止を利用するのが、一つの手段である。
ギブス固定中でも小指の外転は行なうことが可能。
activeに小指外転を繰り返し行ない、豆状骨に刺激を入れ、2次的に尺側手根屈筋の柔軟性を維持する。
ギブス除去後の状態では、若干の浮腫も出ており、皮膚の状態は伸張度が低い。
手関節掌屈 20度、背屈20度と制限もあり、尺側部にもわずかな痛みあり。
まずは無理をしないように近位側からゆっくりと皮膚の柔軟性を獲得していく。痛みが出ない操作を心がけた。
浮腫に関しては、事前に「ギブスを外したとき、腫れることがありますよ。でもこれは人間の正常な反応ですので大丈夫です。あまり長くなると良くないので、その時期にあうようにリハビリしていきますね。」と伝えていた。
そのため腫れることに対して、特に気にしている様子はない。このように事前に推測できることも伝えていくと、不安感の軽減につながると思われる。
皮膚の柔軟性が獲得できるようアプローチする。特に手背の皮膚の伸張性は重要である。
動画は健常人で行なっている為、負荷が強いと思われるが、実際には無理をしない範囲でゆっくりと柔軟性を獲得する。
母指の動きを改善する為に、母指内転筋の柔軟性獲得を目指していく。
機能的な手になるには、母指の動きがkey pointとなる。今回はその一つの方法をお伝えする。
肩関節・肘関節・手指のアプローチを十分行なった後に、近位手根列の操作を実施。月状骨と舟状骨動きの改善は必須である。また評価として、手関節背屈時に出てくる「しわ」の評価も重要。橈骨手根関節か手根中央関節の動きがどれだけ出てきているか、視覚的にも判断できる。
症例自身の、今後どのようになっていくかの不安は推測できる。
気持ちを汲み取るという姿勢は大事だと思うし、こちらが自信をもって「大丈夫!」といえる態度も必要と思われる。
セラピーとは、常に人と人との接する過程がある。そこに不安感などがあると、どんなにいい技術を用いても十分な結果は出せない。
セラピスト自身も成長し、その中から生まれる自信を持った上で症例と関わりたい。
これはいつも筆者が思っていることである。