手からのアプローチによる肩関節外旋可動域改善テクニック

人間総合科学大学 保健医療学部
リハビリテーション学科 理学療法学専攻
理学療法士  吉田 一也

 

はじめに

 

 肩関節疾患において肩関節外旋可動域制限を呈している症例は多いが、急性期の「安静」の不十分によって制限を助長している症例も多く経験する。そのような場合、肩より遠位の肘や手に二次的な問題を引き起こし、肩に悪影響を及ぼしているものと推察する。そこで上肢遠位(手)からのアプローチによって二次的な問題を解消するテクニックを臨床で行い、効果を実感しているので今回紹介する。

 

「安静」の不十分による肩関節外旋可動域制限

 図1 三角巾の不良姿勢
 図1 三角巾の不良姿勢

 

 

 

 そもそも三角巾をつけて固定しておけば安静にしていると解釈している患者や療法士も多い。当然、障害部を回復させるには「安静」が必要となるが、三角巾の使用方法を間違えると「安静」にならないだけでなく、炎症を助長してしまうこともある。

 

 

 

 三角巾の不良姿勢は図1に示す通り、肩甲骨下制・外転、肩関節内旋、肘関節屈曲、前腕回内、手関節掌屈・尺屈、手指屈曲位であることが多い1)。ケガをしているのが肩にも関わらず、肘関節の伸展制限を有している症例も多いが、これは三角巾の固定による二次的合併症と捉えている(二次的合併症としては、肩こりや腰痛も起こりやすい)。また、三角巾を外してもそのパターンから抜け出せない症例が多い。そのため、最適な「安静」は肩関節のみを良肢位で保持し、他部位の活動性を維持することだと考えている。「安静」には、適切なポジショニングが重要な役割を果たし、障害部の回復を促してくれる。

肩関節外旋可動域改善テクニックの目的

図2 治療展開イメージ図
図2 治療展開イメージ図

 

 今回紹介するテクニックの目的は、急性期の上肢不良肢位が肩関節の可動域に悪影響を及ぼしている症例に対して、その悪循環を取り除くものである。よって、骨や関節、靭帯などの形態上の問題がある場合の可動域制限には不適応となるケースがあることを理解する必要がある。また、このような不良肢位を作らないための予防的な取り組みが必要不可欠となることは言うまでもない。


 三角巾による不良肢位からの脱却がそのカギを握るため、アプローチとしては、手指伸展、手関節背屈・撓屈、前腕回外、肘関節伸展位を作ることが大切である。

 

 

 

基本としては、図2のように経験上遠位部からパターンを崩していくことで、肩関節の外旋可動域を改善するケースが多いことから、まずは手指の伸展および手関節の背屈・撓屈を促した後で、肘関節の伸展を促し、肩関節を痛みのない程度に外旋させることで、効率的に外旋可動域を改善させることができる。



肩関節外旋可動域改善テクニックの方法および治療ポイント

 肩関節の肢位は、立花ら2)や山口3)が報告しているように、関節包の張力が一定となる肩甲骨面(scapular plane)上での肩甲上腕関節挙上30°(肩関節としては肩甲骨の運動も含まれるため、肩関節挙上45°となる)、内外旋中間位で本テクニックを行うこ とを推奨する。

 

 次に、手指に伸展制限がないか可動制を確認する。三角巾をしていてもADL動作で手指を使用している場合が多いため、問題にならない症例も多い。ただ、 肩の炎症によって血流が悪化し、上肢遠位に浮腫などを呈している場合もあるのでチェックが必要である。その後、手根骨(舟状骨・月状骨)を掌側から把持 し、手関節を背屈、次いで撓屈する(図3)。その状態のまま、前腕を回外しながら肘関節を伸展し、最後に肩関節を外旋する(図4)。

 

 

 ポイントとしては、ひと手技ひと手技ごとに、可動域を改善できているか確認しながら、次のアプローチに進むことが重要である。例えば、手関節背屈へのア プローチを行うことにより、撓屈が行いやすくなることを確認する。撓屈へのアプローチを行うことにより、前腕が回外しやすくなり肘関節の伸展が行いやすく なるなどの確認作業が大切である。不十分な部位があれば時間をかけて局所的な治療が必要となる。

 

 治療の展開として、手指、手関節、肘関節、肩関節の順に行い、極力に肩関節にかかる負担を減らした状態で、関節可動域運動を行うことが重要となる。

図3 手関節背屈 ー 撓屈
図3 手関節背屈 ー 撓屈

①    手根骨(舟状骨・月状骨)を把持して、手関節を背屈させる。片手で行うことが難しい場合は両手で行っても良い。

 

②    手関節を背屈位で保持したまま、手関節を撓屈させる。

図4 肘関節伸展 ー 肩関節外旋
図4 肘関節伸展 ー 肩関節外旋

手関節を背屈・撓屈位で保持したまま、前腕回外および肘関節を伸展させ、痛みのでない範囲で肩関節を外旋させる。

 

 

治療デモンストレーション

 

 治療の展開として、手指、手関節、肘関節、肩関節の順に行い、極力に肩関節にかかる負担を減らした状態で、関節可動域運動を行うことが重要となる。

動画1 手指の状態把握

手指に関節可動域制限がないか確認する。

動画2 治療(モデル:骨標本)

セラピストは手根骨を掌側から把持して、手関節を背屈させるように手根骨を手背側に誘導する。その状態を保持したまま、橈側方向に手根骨を誘導し、前腕を回外、肘関節伸展させ、最後に肩関節を痛みのない範囲で外旋させる。

動画3 治療(モデル:人間)

セラピストは手根骨を掌側から把持して、手関節を背屈させるように手根骨を手背側に誘導する。その状態を保持したまま、橈側方向に手根骨を誘導し、前腕を回外、肘関節伸展させ、最後に肩関節を痛みのない範囲で外旋させる。

  

おわりに

 

 肩関節障害に対する治療は、肩以外の部位を如何に機能低下させず、肩を「安静」にさせておくかが、早期回復のカギとなると考える。そのために、炎症期のうちから予防的なアプローチが必要となると考えられる。今回紹介したテクニックもその一助となると期待している。

 

引用文献

 

1.    山㟢勉(): 整形外科理学療法の理論と技術. メジカルビュー社, 東京, 1997: 202-276.

2.    立花孝, 野島晃, 松岡俊哉: 肩関節. PTジャーナル, 1990, 24(11): 761-767.

3.    山口光國: 肩関節機能の評価法と臨床推論の進め方. 理学療法, 2008, 25(9): 1274-1281.

 

参考文献

 

1.    Donald A. Neumann(嶋田智明, 有馬慶美 監訳): カラー版 筋骨格系のキネシオロジー 原著第2. 医歯薬出版, 東京, 2012: pp241-272.

2.    三浦寛: 操体法入門 からだの連動のしくみがわかる 手関節からのアプローチ. 医道の日本社, 神奈川, 2003.

 

勉強会の紹介

SPTラボSeminar

    主には、人間総合科学大学岩槻キャンパス(埼玉県さいたま市岩槻区)を会場として、運動器・スポーツに関わる勉強会を定期的に開催しています。実技中心で、すぐに臨床に還元できるような内容にしようと取り組んでいます。

 

SPTラボ ホームページ

http://spt-labo.jimdo.com

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