変形性膝関節症の早期発見・予防を目的とした取組み ~高感度小型加速度計を用いた関節音図の測定~

主体会病院 総合リハビリテーションセンター

理学療法士 田中紀行

 

はじめに

 

変形性膝関節症(Osteoarthritis: OA)は、加齢、肥満、遺伝的因子、力学的負荷など多くの原因が関与して発症する多因子疾患である。

 

なかでも力学的負荷およびその蓄積は,関節軟骨の初期変性とその破壊,および軟骨下骨で起こる骨のターンオーバー(骨吸収と形成)の異常に関与する要因である。しかしながら、臨床的の大きな問題として痛みの大きさと変性段階が必ずしも一致せず、痛みがあるまで整形外科への受診をしないことがしばしばあり、OA発見が遅れることがよくある。


ROADResearch on Osteoarthritis Against Disability)による疫学研究では、日本のOA患者数(40歳以上)を推定すると、X線像により診断される患者数は2,530万人(男性860万人、女性1,670万人)となり、変形性膝関節症の有症状患者数は約800万人と推定される。

 

また、高齢者が要支援になる原因の1位、要介護になる原因の4位が関節疾患であり、運動器の障害が高齢者の生活の質(quality of life: QOL)を著しく障害する。これらより早期発見・予防的観点が重要になることは言うまでもない。

 

関節音図とは?

 

関節音図(Vibroarthrography: VAG)は、OAの機械的摩擦を振動信号として活用し、関節軟骨表面の状態を評価する非侵襲的な手法である。

 

もともとは、医師による聴診器を用いた膝クリック音の聴診に基づいており、その後の初期研究では、実験的環境下にて膝関節から発生する音をマイクロフォンにて記録していたが、その精度から臨床応用は難しかった。

近年になって、計測機器である加速度計の精度が向上し安価になったことにより、容易に膝関節の機械的振動を広帯域周波数にて記録が可能となった。

 

しかしながら、臨床的な要素はほとんど配慮されておらず実験的研究が多いのが現実であった。そこで早期発見・予防を目的とした臨床で簡易的に使用できる方法を検討した。図1はその測定風景である。

 

 

1 関節音図の測定風景(筆者考案)

 


関節音図の臨床的測定方法の一例。立ち上がり動作を測定するスタートポジション。

 

取り組み①

 

関節音図を臨床的な早期発見・予防ツールにするには、最初に日常生活活動に伴った動作にて健常人とOAとの間に波形の違いがあることを証明する必要がある。そこで表1の対象にて実験を行った。

 

表1 各群の特性

 

 

対象に対して、膝関節のVAG波形を立ち上がり動作時に計測した。図1は実際の波形である。

 

1 各群のVAG波形


Knee angleの変化は立ち上がりの動作を表しており、S-upは起立、S-downは着座のタイミングを示す。

加速度計によってXYZの三軸方向のそれぞれの波形を計測した後に、三軸の波形の二乗平均平方根をすることによってRMSを算出した。

 

RMSは、関節音図の大きさを示すものである。OA群は立ち座りの際に大きなRMSが観察される。これは、OAによる関節変性を示していると考えられる。それと比較して、健常高齢群及び健常若年群は立ち上がりの際の大きなRMSを認めない。これは、関節変性がないことが考えられる。

 

 次にRMSを周波数分析した結果が図2となる。

 

2 周波数段階別のPower値の違い(* p 0.05

 

 

上記の図によりOA群では、50149 Hzの周波数帯で高いパワー値を示している。健常高齢者と健常若年者と比較するとその違いは明らかである。

 

取り組み①では、OAが他の健常群と比較して関節音図に違いを示すかという点について調査した。

結果的に、立ち座りの際にRMS高値を示し(表2参照)、周波数分析では50149 Hzで特徴的な変化が出現することが明らかになった。

 

 

取り組み①でわかったこと

日常生活活動に伴った動作にて健常人とOAとの間に関節音図の違いがあることを証明することができた。


研究内容の詳細論文

Noriyuki Tanaka and Minoru HoshiyamaVirbroarthrography in patients with knee arthropathy. J Back Musculoskelet Rehab: 25(2), 117-22, 2012.

 

 

【上記結果から生じてく疑問点】

    OAの重症度分類により波形の違いはあるのか?

    痛みと重症度分類の間に本当に関係性はないのか?

 

取り組み②

 重症度分類を用いて膝OA患者群を軽度(Kellgren-Lawrence grading scale: KL I-II)と重度(KL III-IV)に分類し、健常高齢者と比較することにより重症度に応じたVAG信号の特性を分析することとした。

 

また、VAG信号のRMS値と各グループの年齢、体重、身長、WOMAC疼痛とWOMAC 身体機能の関連性についても検討する。表の対象にて実験を行った。

 

1 各群の特性

 

対象に対して、膝関節のVAG波形を立ち上がり動作時に計測した。図1は実際の波形である。

 

 

 

Knee angleの変化は立ち上がりの動作を表している。

 

加速度計によってXYZの三軸方向のそれぞれの波形を計測した後に、三軸の波形の二乗平均平方根をすることによってRMSを算出した。


 RMSは、関節音図の大きさを示すものである。


KL I-II群は、Controlと比較するすると立ち座りの際にやや大きなRMSが観察される。KL III-IV群は、どの群と比較しても大きなRMSが観察される。これは、OAによる関節変性を示している。

 

1 各群のVAG波形

 

ここでOAによるKLの違いを見てみると…

 

Kellgren-Lawrence分類


0:骨棘なし

Ⅰ:微小な骨棘形成が疑われる

Ⅱ:軽度OA、微小な骨棘形成あり、関節裂隙狭小化・骨硬化・骨囊腫形成を認めることがある

Ⅲ:中等度OA、骨棘形成と中等度の関節裂隙狭小化

Ⅳ:高度OA、顕著な関節裂隙の狭小化と大きな骨棘形成

Kellgren JH Lawrence JS: Ann Rheum Dis 16494-502,1957.

 

以上の分類とVAG波形の変化を考えると、OAの重症度が高い程、VAGの波形が大きいという可能性がある。

そこでRMSを周波数分析した結果が図2となる。

 

2 周波数段階別のPower値の違い(* p 0.05


上記の図によりControlと比較して、5099 Hzの周波数帯でKL I-IIが高いパワー値を示し、KL III-IVはさらに高いパワー値を示している。

 

この結果より、VAG信号は、5099 Hzの周波数帯ではOAの重症度が進行するにしたがい大きなパワー値、つまり機械的振動を発生させていることになる。


上記までで、①OAの重症度分類により波形の違いはあるのか?についての答えが導き出された。

OAは、重症度が進行するほど機械的振動を発生させ、それはVAGに大きなパワー値が示される。

 

次にVAG値と各種身体因子の関連性について検討した。


先行研究では…


WOMAC を含む自己申告による症状や臨床兆候については、膝の構造的な変化と関連しない


1)     Creamer P, et al.Factors associated with functional impairment in symptomatic knee osteoarthritis. Rheumatology(Oxford) 39(5):490-496, 2000.


2)     Miller ME et alModifiers of change in physical functioning in older adults with knee pain: the Observational Arthritis Study in Seniors (OASIS). Arthritis Rheum 45(5):331-339, 2001.


3)     Link TM et alOsteoarthritis: MR imaging findings in different stages of disease and correlation with clinical findings. Radiology 226(2):373-381, 2003.


WOMAC スコアは、精神的苦痛や QOL と関連がある


1)     Summers MN et alRadiographic assessment and psychologic variables as predictors of pain and functional impairment in osteoarthritis of the knee or hip. Arthritis Rheum 31(2):204-209, 1988.


2)     Salaffi F et alHealth-related quality of life in patients with hip or knee osteoarthritis: comparison of generic and disease-specific instruments. Clin Rheumatol 24(1):29-37, 2005.


3)     Muraki S et alAssociation of radiographic and symptomatic knee osteoarthritis with health-related quality of life in a population-based cohort study in Japan: the ROAD study. Osteoarthritis Cartilage 18(9):1227-1234, 2010.

 

今回の結果においても先行研究と同様にRMS値と各グループの年齢、体重、身長、WOMAC疼痛とWOMAC身体機能の関連性は、すべての項目で認められなかった。以上のことよりRMS値は、身体因子、疼痛や身体機能とは別の因子と言うことがわかる。

 

上記の検討で、②痛みと重症度分類の間に本当に関係性はないのか?についての答えも導き出された。

OAの重症度と身体因子や疼痛等は必ずしも関係しないことから、身体機能や痛みなどの質問紙を用いた評価のみをOAの早期発見・予防介入時期の参考にすることは困難であることがわかる。

 

取り組み②でわかったこと

OAの重症度によりVAGのパワー値は大きくなるが、パワー値と身体因子や痛みとの関連はないためVAGOAにとって簡便な評価ツールであると言える。 

 

研究内容の詳細論文


Noriyuki Tanaka and Minoru HoshiyamaArticular sound and clinical stages in knee arthropathy Journal of Musculoskeletal Research14(1)2011.


以上の取り組み①②をまとめた内容が以下の通りである。

 

まとめ

   疫学研究よりOA40歳で2530万人にものぼり、高齢者の生活の質を落とす要因になっている。

 

   OAの重症度は、必ずしも痛み等の症状と相関しないため、自覚症状がないと医療機関への受診が遅れてしまいがちである。

 

   医療機関での対応策として、進行防止等の検討は多いが早期発見・予防に対する介入は少なく、また医療保険の特質上難しい。

 

   現時点での問題点として早期発見・予防を実施するための、初期のOAを非侵襲的に簡便に評価するツールがなかった。

 

   その点で今回利用したVAG計測方法は、初期OAを発見できる可能性をもっており、立ち上がり動作等の機械的振動を波形として視覚的に提示することは、対象者の予防意欲つまり生活習慣改善や運動促進にもつながる。

 

   地域在住の高齢者をはじめとしたOA予備軍に対し、VAG測定を含めたOA予防プログラムを啓蒙できれば、新たな健康増進になり得る可能性がある。

 

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