お茶の水整形外科機能リハビリテーションクリニック
理学療法士 赤羽 秀徳
腰痛患者は、ぎっくり腰などの痛みの体験や、長期におよぶ慢性的な痛みにより恐怖心、不安感などを抱えていることが多い。我々医療従事者が患者に伝える検査結果やエクササイズ内容、姿勢の改善点など、その情報によって腰痛に対して悲観的になったり、楽観的に向き合えるようになったりする。
今回、長期間の治療、度重なる検査ののち手術を提案されていたが、それまで理学療法士により禁止されていた一種目の運動を取り入れることにより、手術を回避できた症例を紹介する。
診断名:うつ状態を伴う慢性腰痛、身体表現性疼痛疑い
年齢・性別:40歳代・男性
現病歴:
2005年5月と2007年6月に、A病院にてヘルニア摘出術施行
2007年10月 長時間のドライブ後に、腰痛再発。その後、B病院に、約二か月半の外来
通院を継続し、低周波治療、マッサージ、腹筋強化など行ったが軽快せず。
2008年4月 A病院に手術目的で入院したが、手術説明に納得できず、手術は中止となった。
その後3週間におよぶ検査入院をしたが、腰痛の原因は判明せず、大学病院に紹介 受診となった。
同年 5月 大学病院医師より、まず保存的治療として理学療法を行うことを提案され、
理学療法開始となった。
丁寧な問診、理学検査の結果、体幹の伸展方向の動きがまず必要と判断した。
30分かけて、上肢を完全伸展した腹臥位での体幹伸展姿勢が可能になった。
ご本人の日記より
「腰痛のある者にとって、うつ伏せで背筋を後ろに反らすこと自体が禁忌であると、他の理学療法士
に聞いていたので、今までこのような姿勢をとったことはなかった。」
「はじめは身体を後方に反らす恐怖感があったが、徐々に慣れてきた。」
「起き上がると、不思議と腰が軽くなった感覚を覚えた。」
ご本人の日記より;
「今までに見たことのない自分の姿勢、また前かがみでなく良い姿勢で歩けることに感動というか、
良い意味での違和感を、感じた。」
その一週間後の日記より:
「今まで、腰痛が発生すると、つい安静にしがちであったがエクササイズを行うことで、か
えって痛みが減少することも実感した。安静=良化ではなく動くこと、動かすこと=良化であると
考えが変わってきた。」
内容:初回理学療法後、腹臥位でのプッシュアップを一週間継続。その後の一週間は、ストレッチ(ハムスト、大腿四頭筋、梨状筋、下腿三頭筋)を追加した。
・動画 「2週間後」
ご本人の日記より;
「軽快な歩行、ジョギングができたのは、約2年半ぶりなので、自分の身体の変化に驚くと共に、理学療法の有効性に自信を深めた。」
その後、1か月半の外来通院を継続し、復職された。
二度のヘルニア摘出術後、腰痛を再発し、2か月半の外来通院後、三週間におよぶ入院検査を受けたが原因は判明せず、大学病院に紹介受診となった40歳代の男性患者の理学療法を担当した。
以前の治療では、担当理学療法士から、腰の伸展方向の動きは避けるように言われていたが、その動きを治療にとりいれることで、顕著な改善が得られた。
一種目の運動の選択が、患者さんの心理面・身体機能面に及ぼす影響の大きさを経験した。